旅と言葉

英語を話しているはずのインド人がえらく巻き舌でまったく聞き取れなかったり、親切に道を教えてくれているはずの広島人がなんだか恐かったり…。そんな経験を誰しももっているのではないでしょうか。
わたしが旅先で経験したトラブルや楽しい思い出の多くは、言葉にまつわることだったような気がします。
海外においてはもちろんのこと、国内を旅行したときでさえ、思いもよらない言葉の壁にぶちあたることがあります。
旅は言葉について再認識させてくれるのです。



そんな言葉の魅力を満喫できるのが本書、『きんこん土佐日記』。

高知新聞に連載された4コマ漫画をまとめて単行本化したものです。
高知新聞といえば、大学寮のOBが高知新聞社に入社し、従順な後輩たちにセールスをしかけた結果、毎朝同じ新聞が10部ずつ寮のポストに放り込まれるという事態が一カ月以上続いた事件は(ごく一部の者の間では)記憶に新しいところ。

それはさておき、本書のページをめくればおじいとおばあ、そして孫のたくみの繰り広げるなんとものほほんとした日常を時事に絡めて描く、まさに新聞の4コマの王道的作品です。しかし彼らの話す言葉は本県外のものにはまったくわからない土佐弁のオンパレード。「へんしも」「たまあ」「へちへやっとうせ」など本当に同じ日本人が話しているとはとても思えない単語が次から次へ飛び出します。さらには「ピエピエポーゥ」といった謎の幼児言葉も登場し、もはや読者の理解を前提としているのかすらあやしいもの。

しかし、この漫画に出てくる土佐弁はすべて今も実際に高知県で使われているもの。
駅から一歩でた瞬間から、「たっすいがはいかん!」と土佐弁が迫ってくる、南国ムードむんむんの街で老若男女の日常語として使用されているのです。京都の大学生が電車の中で「どすえ〜」などとふざけているのとはちょっと違った重みがあります。

しかし文字にしただけでもこんなに難解なのに、さらに独特のアクセントやイントネーションが加わった話し言葉はいったい・・・と不安になってしまいます。確かにはじめて触れる方言は、勉強もせずにネパール人と会話しようとするようなもの。わからなかったり恐かったり…

「わからない」ことを楽しんでしまうのも旅での出会いならでは。そして、わかりたい!とおもったら住むしかありません!

「きりでもんでなにするがやき!そこでろいろいしゆうがやったらはようとってきいや!!」と怒鳴られてオロオロしていたわたしも、四年後にはサッと電動ドリルを取りに走れるようにまでなったのですから。


どこに住み、そしてなにを話すか。そんなことまで考えてしまうマンガです。

鳥居